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矛盾について(その15) ブログトップ

8月11日(水) [矛盾について(その15)]

 だいぶ前のことですが、高校生に天皇制について議論させたことがあります。多くの生徒は天皇制は守るべきだと主張し、天皇制を否定する生徒は数えるほどしかいません。賛成論の理由にはさまざまものがありますが、一番共感を得ていたのは「天皇制は日本の古い文化を継承するという役割を果たしているから」ということでした。確かに天皇制は長く続いていますから、その中に日本の古い文化が伝えられていることは間違いありません。でもこの事実記述が正しさからと言って、「天皇制は守らなければならない」という意思表明が正しいことにはなりません。同じ事実から「日本はいつまでも古い文化を引きずっているのではなく、このあたりで古い衣装を脱ぐべきだ」という意思表明もできるからです。事実から意思を導き出すことはできません。
 事実から意思が出てくるように見えるのは、事実の中に密かに意思が持ち込まれているからです。「天皇制は日本の古い文化を継承している」という事実から「天皇制は守らなければならない」という判断が出てくるように見えるのは、事実記述の中に「古い文化をそのまま継承するのはいいことだ」という価値判断が言外に匂わされているからです。「パレスティナにはユダヤ人の王国が栄えていた」という事実から「パレスティナはユダヤ人の土地だ」という宣言が出てくるように思えるのは、事実記述の中に「パレスティナはユダヤ人にとっての約束の地である」という宗教的信念が孕まれているからです。価値判断も宗教的信念も事実の記述ではなく意思表明であることは言うまでもありません。
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