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12月15日(水) [矛盾について(その139)]

 「おまえは他の誰かを押しのけて生きている」という声は内なる理性の声かどうか、これを考えるためにカントを参照したいと思います。
 カントはある行為が善か悪かは、その結果ではなく動機によって判定されると考えました。その行為がどんな結果をもたらすのか(人々をより幸せにするか、それともより不幸せにするか)ではなく、それがどんな動機でなされるか(欲望の命令に従っているか、それとも理性の命令に従っているか)こそ、その行為の善悪を決めると。
 では理性の命令とは何でしょうか。カントは彼独特の言い回しでこう言います、「人間性を単なる手段としてではなく、つねに同時に目的として扱うように行為せよ」と。自分にせよ、相手にせよ、単に手段とするのではなく、同時に目的としなさいということです。
 ここで注意が必要なのは、カントは「手段としてではなく、目的として扱え」と言っているのではなく、「単に手段としてではなく、同時に目的として扱え」と言っていることです。手段として扱うということは、平たく言えば、自分のために利用するということですが、少し振り返れば分かりますように、ぼくらは他の誰彼を利用することなくしては生きていけません。
 ぼくは日々食べているものを何一つ自分で作っていません。すべて人に頼っています。こんなふうに他の誰彼に依存しなければ生きていけないということは、他の誰彼を自分のために利用しているということです。
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