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2月1日(火) [矛盾について(その187)]

 「何か得体の知れない力に動かされている」という宿業の感覚は、一面ではぼくらを「何ともしようがない」という無力感に誘います。
 どうもがいても宿業から逃れることはできないのだから、一生懸命努力しても無駄だと思わせます。これは世の権力者には非常に都合のいいものでしょう。みんなにとって何か困ったことが起こったとき、おのずと為政者の責任を問う声が出てくるものです。しかし、どんなに辛いことでも、どうにもならないこととあきらめてしまえば為政者は安泰です。実際の歴史の中で、宿業の思想がそうした役割を果たしてきたのは間違いないでしょう。
 その反面、宿業の感覚はぼくらを深く慰藉してくれるところがあります。
 何かを成し遂げなければならないと義務感に押しつぶされそうになっているとき、「どんなに頑張っても、なるようにしかならない」と思うことで気持ちが急に軽くなります。あるいは誰かの責任を厳しく問い詰めなければならないと思っているとき、「彼だってどうしようもない宿業を負っているのだ」と思うことで急に人を見る眼が優しくなることもあります。
 宿業はこのように一面ではぼくらを無気力に陥らせますが、反面ぼくらを責任の重苦しさから解放してくれる力があります。
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