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2月27日(日) [矛盾について(その213)]

 「あなた」ということばは日常の会話の中では意外に出番が少ないような気がします。ではどこで使われるかと言いますと、書いたものの中ではないでしょうか。例えば手紙。口では「あなた」と言いにくいのに、手紙では言えるということがあります。
 口で言うのと手紙で言うのは、相手が目の前にいるのといないのとの違いです。目の前にいる人には「あなた」と言いにくいのに、いなければ言える―ここにも「あなた」ということばの〈距離感〉が出ているようです。「あなた」には、どこか遠いところ(彼方-あなた-)にいる人という感じがあります。遠いところから呼びかけてくるような感じがして、それに応える。弔辞で亡くなった人を「あなた」と呼ぶのがその典型です。
 「あなた」ということばは、普通の二人称代名詞として使う場合とは別に、どんなときにふさわしいと感じるでしょう。
 こう言いました、ある人がぼくの「いる」ことを肯定してくれたと感じられたとき、その人がぼくの「あなた」となると。例えば「先生、今日の授業おもしろかった」と言った生徒は、そのときぼくにとっての「あなた」となったのです。さて、一人の生徒であることと「あなた」であることはどう違うのでしょう。見た限りでは何も変わりません、「先生、今日の授業云々」と言っている生徒がいるだけです。でも、そのことがぼくの「いる」ことを肯定してくれていると感じたとき、その生徒はぼくが教えている数多くの生徒の一人ではなく、かけがえのない「あなた」となったのです。その生徒自身は何の変わらないのに、ぼくにとっては大きく変わったのです、「きみ」から「あなた」へと。
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