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矛盾について(その219) ブログトップ

3月5日(土) [矛盾について(その219)]

 「ぼく」と「きみ」の間のベクトルは双方向です。「ぼく⇔きみ」です。ところが「わたし」と「あなた」の間のベクトルは一方向です。「あなた⇒わたし」だけで「わたし⇒あなた」はありません。「あなた」はあるとき突然「わたし」の前にたち現われるのです。「きみ」も突然「ぼく」の目の前に現われることがありますが、次の瞬間「ぼく」は「きみ」に問いかけるでしょう、例えば「どうしてきみはここにいるのか?」と。ところが「あなた」が「わたし」の目の前に現われても、「わたし」は「あなた」に問いかけることはできません。もし何かを言うとしますと、それは「あなた」となってたち現われた「誰か」に向かって言っているのであって、「あなた」に語りかけることはできないのです。
 「先生、今日の授業おもしろかった」と言った生徒に、「どんなところがおもしろかった?」と問いかえすとしますと、それは「ぼく」と「きみ」の対話にすぎません。しかし「先生、今日の授業云々」と言った生徒が「あなた」となってたち現われたとき、「あなた」に語りかけることはできません。ただ「あなた」の声をほれぼれと聞くだけです。その声は「わたし」の「いる」ことを肯定してくれています、「そのまま生きていていい」と。その声は紛れもなく生徒から聞こえてくるのですが、もちろん生徒がそんなことを言っているのではありません。それは「きみ」の声ではなく「あなた」の声です。
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