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『末燈鈔』を読む(その144) ブログトップ

第19通第1段 [『末燈鈔』を読む(その144)]

           第10章 無明の酒にゑひたるひと

(1) 第19通第1段

 第19通はかなり長い手紙ですので4段に分け、まずはその第1段。

 御ふみ、たびたびまいらせさふらひき。御覧ぜずやさふらひけん。なにごとよりも明法御房の往生の本意とげておはしましさふらふこそ、常陸国うちの、これにこゝろざしおはしますひとびとの御ために、めでたきことにてさふらへ。往生はともかくも凡夫のはからひにてすべきことにてもさふらはず。めでたき智者もはからふべきべきことにもさふらはず。大小の聖人だにも、ともかくもはからはで、たゞ願力にまかせてこそおはしますことにてさふらへ。ましてをのをののやうにおはしますひとびとは、たゞこのちかひありときゝ、南無阿弥陀仏にあひまいらせたまふこそ、ありがたくめでたくさふらふ御果報にてはさふらふなれ。とかくはからはせたまふこと、ゆめゆめさふらふべからず。さきにくだしまいらせさふらひし『唯信鈔』『自力他力』なんどのふみにて御覧さふらふべし。それこそ、この世にとりてはよきひとびとにておはします。すでに往生をもしておはしますひとびとにてさふらへば、そのふみどもにかゝれてさふらふには、なにごともなにごともすぐべくもさふらはず。法然聖人の御をしへを、よくよく御こゝろえたるひとびとにておはしますにさふらひき。さればこそ往生もめでたくしておはしましさふらへ。

 (現代語訳)何度も手紙を書きましたが、お読みになっていないのでしょうか。何よりも、明法房が往生の本意をとげられましたことは、常陸の国において往生にこころざしのある人々にとりまして、めでたいことです。往生はともかくも凡夫があれこれはからってすることではありません。立派な智者もはからうことではありません。大乗・小乗の聖人であっても、ともかくはからわないで、ただ本願の力にお任せになっておられるのです。ましてあなた方のような方々は、ただこの誓いがあると聞かせていただき、南無阿弥陀仏に遇わせていただけたことこそ、有難く喜ばしいご果報ではありませんか。あれやこれやとはからうことはゆめゆめありませんように。前に書き送ってあげました『唯信鈔』や『自力他力』などの書物を御覧になってください。これらをお書きになった方々は、この世に生きるわれわれにとってなくてはならない人々です。すでに往生されている方々ですから、その書物に書かれていることに優るものは何もありません。法然上人の教えをよくよく心得られた人々でございました。だからこそ、めでたく往生されたのです。


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