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よこさま [『唯信鈔文意』を読む(その116)]

(8)よこさま

 「たてさま」と言いますと、「一本気」「堅気」「努力」といったことばが連想されますが、「よこさま」となりますと、すぐ思いつくのが「よこしま」です。「横着」「横領」「横柄」「横暴」と、横のつくことばはどれもよろしくありません。やはり「たてさま」があるべき姿で、「よこさま」は正しくないのです。「他力本願」の評判がよろしくないのも、他力の中にこの「よこさま」の匂いがしみついているからでしょう。
 人間やはり「たてさま」にシャキッと立っているのがよろしく、「よこさま」に寝そべっているのはみっともない。ですから「たてさまに超える」ことが正しく、「よこさまに超える」のは横着者です。しかし、これは「自力の行」の世界のこと。それとは別次元に「他力の信」の世界があるのです。そして「他力の信」とは「よこさまに超える」ことなのです。改めて言っておきますが、この二つの世界を同じ土俵に並べることはできませんから、どちらが上だ下だ、どちらが優だ劣だなどというのはナンセンスです。
 それにしても「他力の信」が「よこさま」とはどういうことでしょう。
 果報は寝て待てということでしょうか。「よこさま」に寝ている間に、よきことが向こうから舞い込んでくるのだから、ジタバタせずにそれを待てばいいのだと。これはしかし「これから」のことを期待しています。身体は「よこさま」に寝ていても、こころは「これから」よきことが起こるのを待っているのです。他力の「よこさま」はそれとは全く次元が異なります。他力とは向こうからやってきた何かにふと気づくことでした。この「ふと」あるいは「思いがけず」が「よこさまに」です。
 「よこさまに」とは「ふと目が横にそれると」ということです。そのときある気づきがやってくる。

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