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『一念多念文意』を読む(その1) ブログトップ

はじめに [『一念多念文意』を読む(その1)]

            第1回 『一念多念文意』という書物

(1)はじめに

 皆さん、こんにちは。これから『一念多念文意』を読んでいきたいと思います。
 『一念多念文意』といいますのは、隆寛の著した『一念多念分別事』に親鸞が注釈を施した書物ですが、単なる注釈書にとどまるものではなく、『分別事』を元として、そこから親鸞独自の信心世界を繰り広げています。
 『分別事』は全文で400字詰原稿用紙4,5枚にすぎませんが、『文意』はと言いますと25枚ほどのボリュームになります。ですから、もはや原本の注釈書というよりは、他力信心に関する親鸞の独立した著作と見た方がいいのかもしれません。
 その点ではこれまで読んできました『唯信鈔文意』とはかなり様子が異なります。こちらは『唯信鈔』に引用されている経釈の文について注釈を施していますから、原本を読むためのコメンタールとしての体裁を持っています。分量的にも『唯信鈔』と『文意』とはほぼ同じくらいのボリュームです。
 さて親鸞は『一念多念分別事』や『唯信鈔』を関東の念仏者たちに書き送り、念仏の教えの要点を簡潔にまとめた書物として、それらを読むようにくりかえし薦めています。そして「文字のこころもしら」ない「ゐなかのひとびと」に、これらの書物がよく理解できるようにと、中に出てくる経釈の難しい文章を噛み砕いて解説しているのが、『一念多念文意』であり『唯信鈔文意』なのです。
 親鸞は法然門下の兄弟子である隆寛や聖覚を高く評価して、関東の念仏者宛ての消息で次のように書いています。「この世にとりてはよきひとびとにておはします。すでに往生をもしておはしますひとびとにてさふらへば、そのふみどもにかゝれてさふらふには、なにごともなにごともすぐ(過ぐ、まさるの意)べくもさふらはず。法然聖人の御をしへを、よくよく御こゝろえたるひとびとにておはしますにさふらひき」。

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