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『観無量寿経』精読(その3) ブログトップ

阿闍世の登場 [『観無量寿経』精読(その3)]

(3)阿闍世の登場

 世に有名な王舎城の悲劇が語りはじめられます。

 その時、王舎大城にひとりの太子あり、阿闍世(あじゃせ)と名づく。調達(じょうだつ、提婆達多)悪友(あくう)の教(おしえ)に随順して、父の王頻婆娑羅(びんばしゃら)を収執し、幽閉して七重の室内に置き、もろもろの群臣を制して、ひとりも往くことを得ざらしむ。国の大夫人(だいぶにん)あり、韋提希(いだいけ)と名づく。大王を恭敬(くぎょう)し、澡浴(そうよく、身体を洗う)清浄にして、酥蜜(そみつ、牛乳を精製した乳酥に蜂蜜を加えたもの)をもつて麨(しょう、むぎこがし)に和してもつてその身に塗り、もろもろの瓔珞のなかに蒲桃(ぶどう)の漿(しょう、汁)を盛(い)れて、ひそかにもつて王にたてまつる。その時に、大王、麨を食(じき)し漿を飲んで、水を求めて口を漱ぐ。口を漱ぎをはりて合掌恭敬し、耆闍崛山に向かひ、はるかに世尊を礼してこの言をなさく、「大目犍連はこれわが親友(しんぬ)なり。願はくは慈悲を興(おこ)して、われに八戒(八斎戒のこと、在家信者が一日一夜を限りに出家者と同じく身を慎むこと)を授けたまへ」と。時に目犍連、鷹・隼の飛ぶがごとくして、疾く王の所に至る。日々にかくのごとくして、王に八戒を授く。世尊また、尊者富楼那を遣はして王のために法を説かしめたまふ。かくのごときの時のあひだに三七日(三週間)を経たり。王、麨蜜を食し法を聞くことを得るがゆゑに顔色(げんしき)和悦なり。

 マガダ国の王子・阿闍世が父王・頻婆娑羅を殺害して王位を簒奪したのは歴史的事実で、いくつかの経典のなかにその反映が見られますが、この『観無量寿経』もこの事件を背景として説かれ、そのことがこの経典のドラマ性をいやが上にも高める効果をもたらしています。このドラマには阿闍世と頻婆娑羅の父子以外に、阿闍世の悪友・提婆達多と阿闍世の母・韋提希が登場してきます。
 ここではほのめかされる程度ですが、この事件が興る背景に提婆達多がいたことに注意しなければなりません。提婆達多は阿難の兄で、釈迦の従弟にあたりますが、釈迦の弟子となったものの、とんでもない野心を懐き、釈迦を亡きものとしてその教団を乗っ取ろうと計ります。そこで阿闍世に近づき、釈迦を崇敬する父王・頻婆娑羅の殺害を唆すのです。阿闍世と力を合わせてマガダ国の聖俗の権力をわがものにしようというわけです。

タグ:親鸞を読む
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