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『唯信鈔文意』という書物 [『唯信鈔文意』を読む(その2)]

(2)『唯信鈔文意』という書物
 
 『唯信鈔文意』という書物は聖覚の著書『唯信鈔』を噛み砕いてより分かりやすくしようという趣旨で親鸞が著したものです。そのねらいはこの書の末尾の次の文によくあらわれています。

 ゐなかのひとびとの、文字のこころもしらず、あさましき愚痴きわまりなきゆへに、やすくこころえさせむとて、同じことをたびたびとりかへしとりかへしかきつけたり。こころあらんひとはおかしくおもふべし。あざけりをなすべし。しかれども、おほかたのそしりをかへりみず、ひとすじにおろかなるものをこころえやすからむとてしるせるなり。

 親鸞が聖覚の『唯信鈔』を高く評価していたことは、何度もこれを書き写し、関東の弟子たちに送っては是非読むように勧めていることから明らかです。親鸞が関東に書き送った書簡の一節を紹介しておきます。

 さきにくだしまいらせさふらひし『唯信鈔』『自力他力』なんどのふみにて御覧さふらふべし。それこそ、この世にとりてはよきひとびとにておはします。すでに往生をもしておはしますひとびとにてさふらへば、そのふみどもにかゝれてさふらふには、なにごともなにごともすぐべくも(それにまさることも)さふらはず。法然聖人の御をしへを、よくよく御こゝろえたるひとびとにておはしますにさふらひき。

 ここに出てくる『自力他力』とは、聖覚と同じく法然の高弟とされる隆寛の著した『自力他力事』のことで、親鸞は聖覚や隆寛を「法然聖人の御をしへを、よくよく御こゝろえたるひとびと」と評価していたことがよく分かります。そして親鸞は聖覚や隆寛の著書を書写して送るだけでなく、それがより理解されやすいようにと、漢文のまま引用されている経釈を分かりやすく解説しているのです。それがこの『唯信鈔文意』です。


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