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「信巻を読む(2)」その129 ブログトップ

母の髪を牽(ひ)きて [「信巻を読む(2)」その129]

(6)母の髪を牽(ひ)きて

阿闍世は提婆達多から聞いた驚くべき噂が本当かどうかを雨行大臣に問います。

善見太子、ひとりの大臣に問はく、名づけて雨行といふ。〈大王(頻婆沙羅王)、なんがゆゑぞわが字(あざな)を立てんとするに、未生怨と作るや(わたしが未生怨とあざなされるようなったのは、父王が何をしたことによるのか)〉と。大臣すなはちためにその本末(一部始終)を説く。提婆達多の所説のごとくして異なけん。善見聞きをはりて、すなはち大臣とともにその父の王を収(と)つて、これを城の外(ほか)に閉ぢ、四種の兵(ししゅのつわもの、象兵・馬兵・車兵・歩兵)をもつて、しかうしてこれを守衛せしむ。毘提夫人(びだいぶにん、韋提希)この事を聞きをはりて、すなはち王の所に至る。時に王を守りて、人をして遮りて入ることを聴(ゆる)さず。その時に、夫人、瞋恚(しんに、怒り)の心を生じてすなはちこれを呵罵(かめ、叱りののしる)す。時にもろもろの守人、すなはち太子に告ぐらく、〈大王の夫人、父の王を見んと欲(おも)ふをば、いぶかし、聴(ゆる)してんやいなや〉と。善見聞きをはりてまた瞋嫌(しんけん、怒り嫌悪する)を生じて、すなはち母の所に往きて、前(すす)んで母の髪を牽(ひ)きて、刀を抜きて斫(き)らんとす。その時に、耆婆(ぎば)まうして大王にいはく、〈国を有(たも)つてよりこのかた、罪きはめて重しといへども、女人に及ばず。いはんや所生の母をや〉と。善見太子この語を聞きをはりて、耆婆のためのゆゑにすなはち放捨して、遮りて大王の衣服(えぶく)・臥具・飲食(おんじき)・湯薬(とうやく)を断つ。七日を過ぎをはるに、王の命すなはち終りぬと。善見太子、父の喪(そう)を見をはりて、まさに悔心(けしん)を生ず。雨行大臣、また種々の悪邪の法をもつて、しかうしてためにこれを説く。〈大王、一切の業行すべて罪あることなし。なんがゆゑぞいま悔心を生ずるや〉と。耆婆またいはく、〈大王まさに知るべし、かくのごときの業は罪業二重なり。一つには父の王を殺さん、二つには須陀洹(しゅだおん、声聞の修道階位、四階位の第一で、頻婆沙羅はこの位にあったという)を殺せり。かくのごときの罪は、仏を除きてさらによく除滅したまふひとましまさず〉と。善見王いはく、〈如来は清浄(しょうじょう)にして穢濁(えじょく)ましますことなし。われら罪人いかんしてか、見たてまつることを得ん〉と。


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