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菩提心 [『教行信証』「信巻」を読む(その84)]

第9回 三心一心問答



 (1) 菩提心



     善導からの引用が長く続いてきましたが、次いで源信の『往生要集』から二文引かれます。



 『往生要集』にいはく、「〈入法界品〉にのたまはく、〈たとへばひとありて不可壊(ふかえ)の薬を得れば、一切の怨敵その便りを得ざるがごとし。菩薩摩訶薩(まかさつ、菩薩と同じ)もまたまたかくのごとし。菩提心不可壊の法薬を得れば、一切の煩悩、諸魔怨敵、壊することあたはざるところなり。たとへば人ありて住水宝珠(じゅうすいほうしゅ、意のままに望みのものを出す如意珠と同じ)をえて、その身に瓔珞(ようらく、飾り)とすれば、深き水中に入りて没溺(もつにゃく)せざるがごとし。菩提心の住水宝珠を得れば、生死海に入りて沈没(ちんもつ)せず。たとへば金剛は百千劫において水中に処して爛壊(らんえ)し、また異変なきがごとし。菩提の心もまたまたかくのごとし。無量劫において生死のなか、もろもろの煩悩の業に処するに、断滅することあたはず、また損減なし〉」と。以上



またいはく、「われまたかの摂取のなかにあれども、煩悩、眼を障へて見たてまつるにあたはずといへども、大悲、倦(ものう)きことなくして、つねにわが身を照らしたまふ」と。以上



 これだけいろいろな引用が次々とつづきますと、それぞれの文が言おうとしていることに気が取られ、全体の流れを見失いがちになります。しかし大事なことはそれぞれの引用を通して親鸞が何を言おうとしているかにあります。引用には違いありませんが、みな親鸞自身が言っていることと受けとめ、親鸞はそれぞれの文で何を伝えようとしているのかを考えなければなりません。



『往生要集』からの引用の一つ目は『華厳経』の「入法界品」の文で、菩提心のもつ大いなる力について述べられ、「不可壊の法薬(これを持つと、どんな敵にも危害を加えられない妙薬)」、「住水宝珠(これを身につけると水におぼれない)」、「金剛(どれだけ時間がたっても壊れない)」という三つの譬えでその功徳が讃嘆されます。この文を引くにあたり、親鸞は菩提心を如来回向の信心として読んでいるのは疑いありません。



タグ:親鸞を読む
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