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因果概念は認識の武器 [『ふりむけば他力』(その81)]

(5)因果概念は認識の武器

 カントにとってニュートン力学の真理性に疑いをいれる余地はありません。しかしヒュームの問題提起、すなわち因果観念の起源は対象の側にではなく、われらのこころの習慣にあるという驚くべき指摘を無視することにすることもできません。ニュートンに代表される近代科学の「客観性」と、ヒュームに提起された因果概念の「主観性」をどう橋渡しするか、これがカントに課された難問でした。
 カントの取った道は因果概念をヒュームのようにわれらのこころの習慣に起因させるのではなく、われらの悟性に内在するカテゴリーとして捉えるという離れ業でした。空間と時間が感性の形式としてはたらくのと同じように、因果の概念は悟性の形式として認識を成り立たせるというのです。まず感性の形式でととのえられたさまざまな表象が、今度は悟性の形式(これには因果の概念をはじめ、12のカテゴリーがあるとされます)に当てはめられ、客観的な認識へと仕上げられるという構図です。このようにして認識の客観性と因果概念の主観性が両立させられたのです。
 ヒュームとカントが近代科学を支える因果概念をどのように捉えたかを見てきましたが、われらがここから学ぶべきことは、近代科学にとって因果概念はわれらが世界を認識するときに不可欠の武器であるということです。
 ある事柄が原因となって別の事柄が結果として生み出されるという図式をもって世界を見ることにより、われらは世界を整然と認識することができ、自然をコントロールすることができる、ここに近代科学の成功の秘密があるということ、これです。このように因果概念はきわめて実践的な概念であるということを確認しておきたいと思うのですが、それに関連して頭に浮ぶのがイギリス経験論の祖とされるフランシス・ベーコンです(合理論の祖であるデカルトと同時代の人です)。彼は肉の腐敗を防ぐには雪のなかに埋めておくといいのではないか(冷凍保存という原因により腐敗防止という結果をえられるのではないか)という仮説を思いつき、早速実験して確かめたのはいいのですが、それが元で風邪をひいて亡くなったという笑えないエピソードがあります。

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