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矛盾について(その540) ブログトップ

1月25日(水) [矛盾について(その540)]

 本屋の店頭で『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』というタイトルが目に入り、読んでみました。もうあの事件から4年近くの歳月が流れました。当時、派遣切り、サブプライムローン、掲示板、アキバなどといったことばがとびかいましたが、あの事件の本質は何だったのかを丁寧な取材で明らかにしようとした本です。著者は北大の先生ですが、一見ジャーナリストが書いたかと思わせるような仕上がりになっていて一気に読ませます。読みながら考えたことを書いておこうと思います。
 やはりキーワードは「帰る場所」(加藤青年が法廷で使ったことば)でしょう。あの事件が起こったとき、真っ先に思ったのは「あゝ、この青年には帰るところがないのだ」ということでした。若者たちに彼への共感が広がっていることを知ったときも、「帰るところがないと感じている青年が多いのだ」と思いました。どこかから「(お早う)おかえり」という声が聞こえるから、「ただいま(かえりました)」と元気よく帰っていくことができると述べたことがありますが、彼には「おかえり」の声が聞こえなくなっていったのではないでしょうか。
 彼は現実の中に「帰る場所」を見いだすことができず、それを掲示板に求めました。彼のことばでは「現実は建前で、掲示板は本音」だったのです。本音とは「人のことを意識することなく『これを書いたら嫌われてしまう』などということを考えずに」表現することで、建前は「相手を傷つけないようにきれいごとを並べること」です。彼は現実(家族や友人、あるいは職場の同僚)では建前の関係しかつくれなくて、ようやく掲示板の中で本音を出すことができたのです。

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