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プラトンの想起説 [『ふりむけば他力』(その41)]

(3)プラトンの想起説

 昔あったことがあるのに、それを忘れてしまっているという言い方は、いかにも物語めいていますが、ここであらためてあらゆる物事は縦横無尽のつながりのなかにあることに思いを致したい。
 「風が吹けば桶屋がもうかる」というのは、一見何のつながりもないように見えるものが、実はつながっていることを言い表しています。そのように物事は見通すことができないつながりで結ばれ合っているとしますと、これまでまったく見えていなかった「運命の赤い糸」がとつぜん目に飛び込んでくることもあるでしょう。それが「ああ、この人だ」という驚きで、「この人とは見えない糸でつながっていたのだ」という発見です。それを、すっかり忘れていたことを突然思い出すと表現しているのですが、むかし同じようなことを言った人がいました。プラトンです。
 彼はこんなふうに問います、人は「美しい」とはどういうことかを誰からも教わったことがないのに、どうして「これは美しい」という判断ができるのだろうかと。そしてこう答えます、実は人はみなもうすでに「美のイデア(原型)」を見たことがあるのだが、この世に生まれてくるときに、それをすっかり忘れてしまったのだと。で、あるとき美しいものを見て、これまで忘れていた「美のイデア」をはっと思い出し、「ああ、何と美しい」と感嘆の声を上げるのだというのです。これをプラトンの想起説といいますが、神話的な説明のなかに真実をうまく掬いあげていると言えないでしょうか。
 これまでまったく見えていなかったつながりが、あるとき突然目に飛び込んでくるというのは、実はもうすでにそのつながりを見ていたのに、それをすっかり忘れていて(忘れていること自体を忘れていて)、あるときそのことをはっと思い出す。そしてそのとき、「そうか、もうとっくにつながっていたのか」という驚きが起ります。それは何の予兆もなく突然起りますから「たまたま」という感じになるのですが、しかしそのとき同時に「ああ、そうなるようになっていたのだ」という思いもあります。「たまたま」遇うのですが、遇ってみますと、それは「そうなるべくしてそうなっていた」ことであると思えるのです。

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