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8月6日(金) [矛盾について(その10)]

 「あの窓は閉まっているが、閉まっていない」は矛盾ですが、「あの窓を開けてもらいたいが、開けてもらいたくない」も矛盾でしょうか。矛盾ということばは、ものごとが真か偽かが問題となるときに使われることばだとしますと、後者は真偽にかかわりありませんから、矛盾ということばはそぐわないということになりそうです。ですから矛盾は命題においてだけ発生すると結論してしまえばすっきりしていいのかもしれませんが、それではぼくらが日常広く使っている矛盾を余りに狭く囲い込んでしまいます。ぼくらは「あの窓を開けてもらいたいが、開けてもらいたくない」などと聞きますと、「あの窓は閉まっているが、閉まっていない」と言われたときと同じように、「きみの言うことは矛盾しているよ」と非難するからです。
 そこで二種類の矛盾をはっきりと区別しましょう。ひとつは命題(事実の記述)の矛盾、もうひとつは意思表明の矛盾。「邪馬台国は九州にあったが、同時に近畿にあった」―これは命題の矛盾で、九州説、近畿説のどちらが真であっても(あるいはどちらも偽であっても)いずれにせよ偽です。どう転んでも偽であるような命題、これが矛盾した命題で、そのような命題は即刻退場が求められます。それに対して「パレスティナをユダヤ人の土地と認めるが、アラブ人の土地とも認める」は意思表明の矛盾で、こんな矛盾した約束がどれほどの災いを引き起こしたかは歴史が示してくれています。矛盾した命題は退場させることがdきますが、矛盾した約束はたちが悪い。矛盾したまま現実に存在してしまうのですから。

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