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新型コロナウイルス [『ふりむけば他力』(その1)]

                はじめに

(1)新型コロナウイルス

 いま新型コロナウイルスが世界を揺るがしています。どうすればこのウイルスの脅威から遁れることができるか、世界の英知がそこに向け結集されています。その努力に最大限の敬意を払いつつ、しかし少し違う角度からこの問題を見てみたい。このウイルスはだれかれ構わず人間の身体に侵入し、そのなかで己を増殖させようとしますから、その結果として急速にわれらのいのちが奪われることになり、それが何より恐ろしいのですが、さてしかし彼らは人間のいのちを奪うことを目的としているのではないでしょう、ただひたすら己を増殖させようとしているだけです。人間のいのちを簡単に奪ってしまえば、もうその中で増殖できなくなるのですから、彼らにとってマイナスのはずです。むしろ人間の個体を殺さないようにしながらその中で増殖し、そしてまた別の個体に乗り移って新天地を切り開いていくのが賢明というものです。
 もう何年前になるでしょうか、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』という書物が一躍脚光を浴びたことがあります。ダーウィンの『種の起源』以来、生きものたちは互いに熾烈な生存競争をするなかで、環境に最も適したものが子孫を残すことに成功してきたと考えられてきましたが、ドーキンスは生物の個体よりもその遺伝子に注目し、遺伝子こそ己を増殖させようとしている主役であり、個体はその乗り物にすぎないと考えました。個体の一見利他的な行動も、よくよく見れば、己の遺伝子をより多く残すためであり、個体は利己的で狡猾な遺伝子に操られて遺伝子の増殖のために働かされているのだというのです。これはマルクスが『資本論』で、資本家個人が利潤を上げるために自己犠牲的に行動するのは、資本そのものの自己増殖のために操られているのだと主張したのを彷彿させるものがあります。

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